「ああっ!!」
「!?な、なんスか急に!?」
「ずっと研究室に籠もりっぱなしで失念していました……もうすぐ年末です!」
「あ、ああ~!なんか全然実感湧かないっスけど……」
「そういえば、そうだったね」
惑星ウォパルに設けられた、広大な研究施設の一室。シルファナの突然の叫びに、ルイス、ノエルもはっとした。しかし、滅多に外には出ないこと、そして研究記録としての年月日ばかり意識していたために、年末と言われてもしっくりこなかった。
「ねんまつ……」
シルファナのそばにいたヴィエンタが、俯きながらぼそっと呟いた。
「?ヴィエンタもやっぱり忘れてましたよね……」
「ん……うん……」
何故か曖昧な返事をするヴィエンタを、シルファナは心配そうに見下ろす。ルイスとノエルも、2人の様子を不思議そうに見守っていた。
「ヴィエンタちゃん、なんかあったんスかね……?」
「さあ……」
暫しの静寂。それを破ったのは、ヴィエンタの嗚咽だった。
「う、ううっ……」
「ヴィエンタ!?わ、私、何か変なこと言いましたか……!?」
「ちがう……ちがうの……シルファナは、わるく、ない……」
「??……」
何故泣きだしてしまったのか分からないまま、シルファナはヴィエンタの背を撫でた。ルイスとノエルも思わず駆け寄る。
「ど、どしたんスか急に……!?」
「……もしかして」
ヴィエンタが感情をあらわにするとしたら、メイという少女とその家族のこと……ひょっとしたら、彼女たちと過ごした「年末」が思い起こされたのかもしれない。そう思いはしたが、あまり触れない方が良いだろうと、言葉を噤んだ。
「ノエルさん?もしかしてって何スか??」
「別に」
「教えてくれたって良いじゃないっスかー!!」
「ルイスうるさい」
さらっとあしらわれ、肩を落とすルイス。2人のいつも通りの様子が耳に入って少し落ち着いたのか、ヴィエンタが涙をぐしゃぐしゃと拭きながら顔を上げた。
「ごめん……」
「大丈夫ですよ。でも、何か心配事があるのなら遠慮なく話してくださいね」
「うん……。……」
ヴィエンタはしばらく迷った末に、一家と過ごした年末の思い出を語った。……その時に願ったことも。
「いちねん、じゃなくて、このさきも……ずっとみんなで、しあわせでいられますようにって……。でも、でも……!」
その先は、言わずとも分かる。また泣きだしてしまったヴィエンタを、シルファナはぎゅっと抱き締めた。ルイスも頭を撫でてやり、ノエルは複雑な表情でヴィエンタを見つめていた。
「それで、ねんまつは、シルファナたちも……あいさつして、おねがいするのかな、って……。……」
まだ何かを言いたげだが、その先をどうしても紡げずに、シルファナの腕の中で震えていた。シルファナはヴィエンタの意をなんとなく察した。
「もしまた願いが叶わなかったら……そう、考えているのですか?」
「っ……!」
図星。ヴィエンタはひときわ大きく肩を震わせてから、シルファナをより強く抱き締めた。
ヴィエンタの真意を知ると、ルイスとノエルは顔を見合わせ、苦笑いした。
「気持ちは分かるっていうか、そう思いたくなるかもっスけど……」
「そんなふうに思っていたら、本当にそうなってしまうかもしれない」
「そそ!それにこの先のことなんて分かんねっスし、分かんないなら良いように願った方がいいと思うっスよ!」
2人に続いて、シルファナもヴィエンタに語り掛けた。
「心配しなくても、この研究が成功するまで……いいえ、成功した後だって、皆一緒です。それに、ご家族とまた幸せに過ごすために、この研究に加わってくれたのでしょう?願いを叶えるために、ね?」
「……!」
「だから、もし叶わなかったらじゃなくて、叶えましょう。必ず。皆で」
シルファナは優しく微笑んだ。ルイスとノエルも、ヴィエンタに強く頷いてみせた。
「……わかった。もう、かなわなかったら、なんて、かんがえない。ぜったいに、かなえるんだ……!」
3人の想いに、ヴィエンタも応え、頷いた。
そして。
「それじゃあ、研究絶対成功させるっス!!っていう願いを込めて、年末はみんなで挨拶っスね!」
「はい!そうしましょう!」
「そうだね」
「うんっ……!」
研究室にふたたび明るさが戻り、4人は年末までの研究の追い込みにかかった。